口腔癌|低侵襲治療
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超音波骨切削機器を用いた患者さんにやさしい低侵襲治療

口の中の病気と言えば、虫歯や歯周病を思いつかれるかも知れませんが、その他にも様々な病気があります。例えば、歯の生える土台である顎(あご)の骨にも様々な病気が発生します。これらの病気は、いくら口の中を見ても、目で見ることは出来ず、大きくなるまで患者さん自身が症状を感じにくく、かなり大きくなってからレントゲン検査などで発見されることが多いのが現状です。
その代表的なものとして、囊胞(のうほう:顎の中にできる袋)や良性の腫瘍(できもの)が挙げられます。原因は様々ですが、そのままにしておくと徐々に大きくなるため、ほとんどの場合にそれらの病変を取り除く手術が必要となります。この時に、顎の骨を削る必要が出てきます。

従来の手術方法では、病変を取り除くために骨を削る場合に、周りの粘膜や神経などの軟らかい組織を傷つけてしまう可能性がありました。骨を包んでいる膜(骨膜)を傷つけると、骨の治りが悪くなり、神経を傷つけてしまうと麻痺が出たりします。
とくに、下あごの骨の中を走る下歯槽神経血管束(かしそうしんけいけっかんそく)と呼ばれる太い神経と血管と顎の病変が近接していたり、あるいは引っ付いていたりしている場合には、手術の後に下の口唇からあごの先にかけての感覚が鈍いなどの神経障害が残ることがありました。さらに、上あごの骨では、上顎洞(じょうがくどう)と呼ばれる空洞が存在しており、従来の骨を削る機器では、その内面にある薄い上顎洞粘膜(または、シュナイダー膜)を傷つけることで、鼻と口の境がなくなることもありました。
昭和大学歯科病院口腔外科では、骨を削る機械として従来のエンジンで金属製の切削バーを回転させるタイプに加え、超音波で骨を削るタイプのものを新しく導入しました。この超音波骨切削機器では、周囲の神経や血管を全く傷つけることなく骨を削ることができ、その治り方も非常に良いことがわかっています。さらに、キャビテーション効果といって超音波の泡により止血ができ、手術による出血も最小限に抑えられます。
現在、同じ手術が「治すために侵襲ある手術」から「低侵襲の患者さんにやさしい手術」へと変わりつつあります。昭和大学歯科病院口腔外科では、患者さんにやさしい低侵襲手術を超音波骨切削機器の応用と内視鏡による支援手術で実現しています。
超音波骨切削機器と内視鏡を併用することで、今まで病変の摘出に伴い、抜歯を余儀なくされてきた歯は、病変に含まれる部分の歯根だけを削るだけで抜かなくてもよく、保存できる可能性が高くなっています。
また、手術後の腫れや痛みも少なく、早期退院し、機能障害もなく社会復帰が望めるようになっています。
このように、昭和大学歯科病院口腔外科では最新機器を使用し、患者さんの手術後の身体的負担や痛みを軽減し、短期間での退院が可能となるように心がけています。
硬性内視鏡を用いた低侵襲手術
むし歯が進行すると上あごや下あごの中に膿の袋ができることがあります(図1)。
また、むし歯に関係なくあごの骨の中に袋ができることもあります(図2)。
これらの袋が大きくなると頬や唇がしびれるなどの障害を生じることがあります。また、これらの袋の中にばい菌が入ることにより歯茎や頬が腫れたりすることもあります(図3)。

そのため、あごの骨の中に袋ができた場合はこれらの袋を取り出す手術が必要になりますが、今までは袋の周りに存在するあごの骨を大きく削ることにより袋を取り出していました(図4)。
しかし、あごの骨を大きく削るため、袋の近くに存在する歯が大きく動いてしまい抜歯せざるを得ないこともあります。また、あごの形もやせてしまい、入れ歯を入れにくくなったり、インプラントをすることが困難になることもあります。現在、お腹の中や胸の中などの手術に内視鏡が用いられており、小さい傷で手術をできるため回復が早くなっています。また、ちく膿の治療にも内視鏡が用いられており、鼻から小さな穴を開けることによりちく膿が治るようになりました。
当科では、可能な限り歯を残すことを目的としていち早く内視鏡を導入し、多くの口腔外科治療に利用しています(図5)。
最近では、あごの骨の中に存在する袋を、親知らずを抜いた穴のみから取り出すことも可能となり、袋の近くの歯も残せるようになっています(図6)。
このような低侵襲治療を行うことにより歯が残せるだけではなく手術による腫れも小さくなり、入院期間も短くなっています。現在は、より低侵襲な治療を提供できるよう内視鏡手術専用の手術器具を開発していますので、今まで以上に多くの歯を残せるようになると考えています。

体への負担を最小限にする最新の低侵襲治療
昭和大学歯科病院口腔外科では、硬性内視鏡を用いて体に対する負担を最小限にする低侵襲治療を行っています。
顔面に傷を残さない顎関節突起骨折治療 口腔内からの内視鏡補助下整復固定術
顎の骨の骨折の中でも多い下顎骨骨折にしばしば合併するものに顎関節突起(下顎の関節部分)の骨折があります。従来の手術では、耳の前や顎の下など顔の皮膚を切る必要がありました。当科では、内視鏡を補助的に用い、口の中からの切開のみで(顔の皮膚を切らずに)骨折部位を固定します。この方法では、顔に傷あとが残らないばかりか、手術後、まれに生じる合併症である顔面神経麻痺などの危険性がなく、また、食事がとれるようになり、入院期間も短くなります。
歯性上顎洞炎(歯が原因の副鼻腔炎)、上顎のう胞(上あごにできる袋のようなな病変)に対する内視鏡を用いた手術
むし歯、歯槽膿漏(しそうのうろう)からの炎症が、上顎洞(目の下で鼻の横にある空洞)に及び、上顎洞炎(蓄のう症)を起こすことがあります。これを歯性上顎洞炎といいます。
従来治療では、原因となる歯を抜いたり、歯の神経を治療するとともに、口の粘膜を大きく切り開き、頬(ほほ)の骨を大きく削って、その骨の穴から、炎症を起こしている粘膜を摘出していました。この手術では「手術をしても痛みが続く」「術後に歯が浮いた感じがする」など不評なことも、まれにありました。

そこで昭和大学歯科病院口腔外科では、近年、耳鼻科領域でも行われている硬性内視鏡を使った手術を応用しています。口の中に約2cmの穴を開け、そこから内視鏡を入れ、内視鏡で上顎洞粘膜を観察しながら、非常に細い器具を使い、洞内を洗浄したり、炎症を起こしている患部粘膜を取り除くようにします。この方法だと患者の負担が小さく、お年寄りでも手術できます。内視鏡はビデオカメラに接続し、テレビモニターをみながら手術を進めるため、内視鏡を容易に操作できます。
私たちの施設での低侵襲治療 ~唾石を取り除く手術~

唾石とは、唾液を作る臓器である唾液腺から口の中に唾液を運ぶ管の中に石ができることをいいます。唾石ができると、唾液が出る際の障害となるばかりでなく、唾液が唾石のために流れ出ることができずに唾液腺のなかに留まり、食事などの度ごとに唾液腺が腫れて痛みます。
我々の施設では、かなり深部にあるものも口のなかから切開して導管を明示し、取り除いています。導管の周囲には神経や血管があり、口のなかから取り除くことは難しい場合もあり、首の皮膚を切って顎下腺とともに唾石を取り除く施設もあります。しかしながら、私たちの施設では、低侵襲治療を心がけており、ほとんどの症例で口のなかから取り除く方法をとっています。
唾石症とは?
唾石とは、唾液腺のなかに生じる炭酸カルシウムとリン酸カルシウムが主成分の結石をいいます。
原因は十分に解明されていませんが、唾液腺に入った異物や唾液腺の管(導管といいます)の細を核としてまわりにカルシウムが沈着してできると考えられています。
唾液は主に大唾液腺と呼ばれる耳下腺、顎下腺、舌下腺から出ます。ことに顎下腺からは粘稠の唾液が多く出るためか、唾石は顎下腺にできる頻度が高いです。
なぜ治療が必要か?
唾液腺のなかに唾石ができると、唾液が出る際の障害となります。
唾液は唾石のために流れ出ることができずに唾液腺のなかに留まり、とくに食事ごとに唾液腺が腫れて痛みます。
放置すると唾液腺炎や唾液分泌減少も引き起こすことがあるため、手術をして取り除きます。
唾石を取り除く手術
下記の図のbやCの位置(唾液の出口、開口部といいます)にあるものも口のなかからから切開して導管を明示し、取り除きます。
導管の周囲には神経や血管があり、口のなかから取り除くことは難しい場合が多く、首の皮膚をメスで切って顎下腺とともに唾石を取り除く施設もあります。
しかしながら、私たちは低侵襲治療を心がけているためほとんどの症例を口のなかから取り除きます。

3D模型を使ったシミュレーションで患者さんにやさしい治療

昭和大学歯科病院口腔外科では、顎変形症(顎が変形し受け口や顔面の非対称な患者さま)やインプラント(人工歯根)の埋め込みや、骨の量が足りず骨造成(インプラントを埋める骨を作ること)が必要な患者さんの手術において、骨の高さや幅などの形状を正確に把握するために、3次元模型によるシミュレ-ションを行っています。
すなわち、患者さん自身の顎の形状を通常のCTにて撮影して得られる画像情報から、特殊な機械を使って立体的で患者さんの顎の骨を同じ形、同じ大きさのものを3次元の模型として作ります。その患者さんの顎の骨と同じ模型上で、様々な手術を3次元的にシミュレーションすることで、正確で、安全確実な手術を実現しています。
例えば、今までの顎変形症の手術では、2次元画像であるX線画像(レントゲン画像)のみを参考に、医師の経験に基づいて手術をする場合が多く、難しい症例では術中にいろいろな判断が必要な場合がありました。これに対し、現在では、3次元画像であるコンピューター断層撮影(CT)画像を基に3次元模型を作成し、患者さんの顎の状態を反映した模型を用いて、どのような手術をするか、どのような問題が生じる可能性があるのか、などを術者が実際の手術の前にシミュレーションすることができます。また、シミュレ-ションの結果を患者さんに見せながら、説明することができ、患者さんも手術後どのようになるかを十分理解して、手術を受けることができます。すでに、実際の多くの手術に適用しており、極めて良好な結果を得ています。

インプラント治療においても、3次元CT上で埋入部位をコンピューター上で、シミュレ-ションします。これはほぼ全例に行い、安全なインプラント埋入に役立っています。また、インプラントを埋めるための骨の量が少ないなど、骨の造成が必要な場合には、模型を作製して必要な骨をどれくらいの量を、どこに作っていけばよいのかを模型上でシミュレ-ションし、安全で確実な手術に役立てています。

このように、視覚的にみるだけではなく、実際の手術と同様に顎の骨を触り、具体的な顎の削除部位や骨片の移動をシミュレ-ションできることで、より安全でより確実な手術が行えるようになっており、手術時間の短縮など患者さんに低侵襲な患者さんにやさしい治療が実現されています。これは歯科用インプラントの埋め込み手術でも同様で、術者はより安全で確実な手術を行うことが出来、また患者さんもより治療による侵襲が少なく、安心して治療に臨むことができることと思います。
サイバーナイフによる低侵襲治療
体にやさしい低侵襲、最新治療

昭和大学歯科病院口腔外科では、口腔がん治療において、関連医療機関と連携し、手術に耐えるだけの体力がない高齢者の患者様やその他の理由で手術ができない患者様などに対して、サイバ-ナイフによる治療を行っています。
サイバ-ナイフとは定位放射線治療を行う放射線照射装置の一つであり、精密に放射線を照射できる最新鋭器です。1992年、アメリカで開発され、そのロボットアームの動きは、巡航ミサイルが動く標的を追跡して撃ち落とす軍事技術を応用しており、照射の誤差は1ミリ以内と精度が高くメスのような鋭い切れ味の「電脳ナイフ」が名前の由来です。

口腔がんに対する放射線治療としては、通常の放射線では、腫瘍だけでなく正常な細胞も破壊してしまいますが、サイバーナイフは患部のみに放射線を照射し、腫瘍を壊すことができます。周りの正常組織を守りながら、直径3cmを超える腫瘍にも適応できます。また、「病変追尾システム」により、コンピューターが常に患者の位置を認識し、1cm以内の動きであれば病変を追尾し治療できることから、頭部の強固な固定がなくても、高精度の放射線治療ができる装置として開発されました。また、最大1200方向から照射でき、病変部の形状に一致した安全な治療が可能となっています。サイバーナイフによるがん治療では、通常の放射線治療に比べ、長期の入院や通院が不要です。また、治療にメスを使わないので、全く痛みはなく、傷跡も残らず、体に大きな負担をかけることもありません。
口腔がんに対する適応などを、相談して治療を行います。
治療の流れ
- CTにより腫瘍の詳細な情報を撮影し、コンピューターで、腫瘍の相対的な位置情報を記憶します。
- 医師がCTのデータをもとに治療計画を作成し、シミュレーションを行います。
- インフォームドコンセント(検討された治療法を説明し、理解頂いた上で承諾を得ます)を行います。
- コンピューターがふたつの画像を瞬間的に比較して病巣位置を認識し、ロボットアームに病巣の働きを追いかける指示を出します。サイバーナイフ治療では、治療台に横になって平均1時間程度のX線を照射すれば終了です。仰向けなっているだけです。照射直後でも普通に食事や会話が出来ます。
- 治療後、ほとんどリハビリに時間をかけることはありませんが、口腔がんの場合には、口内炎や咽頭炎ができ、食事しずくなることがあります。場合によって、口内炎コントロ-ルのために入院が必要になります。




